横浜市におけるDXリーダー育成の挑戦

デジタル人材の育成が全国の自治体共通の課題となるなか、横浜市では、これまでのDXリテラシー向上の取り組みを一歩進め、「周囲を巻き込み、自律的に行動できるDXリーダー」の育成に挑戦しています。 2025年度はeラーニングによる個人学習と、リアルな場での研修・コミュニティ形成を組み合わせるプログラムを実施。知識習得にとどまらない“実践につながる学び”が生まれ始めました。 なかでもパソナデジタルアカデミーは、計3回の“リアルな場での研修”を横浜市様とともに企画、実施させていただきました。 今回は、今年度から本格的に始動したDXリーダー育成プログラムについて、企画・運営を担う横浜市の相羽洋一様に、取り組みの背景や手応え、そして想定を超えて生まれた変化についてお話を伺いました。 横浜市デジタル統括本部 企画調整課 担当係長相羽 洋一 様                      ※取材当時の情報です 1. リテラシー教育の先へ─「実践できるDXリーダー」育成に舵を切った背景 ―横浜市のデジタル戦略と、DXリーダー育成に取り組むことになった背景を教えてください。 2040年問題と言われる働き手不足にむけて、DXの推進が求められています。 横浜市では『横浜DX戦略』の実現に向けて、「すべての職員がデジタル人材」を掲げて、この4年間、マインドチェンジや基礎的な知識・スキルの習得を目的に各種研修に取り組んできました。また、人材育成プラットフォームを運営し、研修等の情報発信のほか、職員がいつでもアクセス可能なeラーニングの環境を整備しています。 本市においては行政手続きのオンライン化をはじめ、DXの事例はいくつか生まれてきましたが、市民の皆さんがより実感できるレベルでの取組を進めるためには、これまでに取り組んできたリテラシーの習得と組織の素地作りから発展し、アクションを起こすための仕組み・体制を作ることが必要でした。そこで今年度は、「実践的な取り組みができるDXリーダー」の育成に向けたプログラムを開始しました。 2. 学びを行動につなげるために─集合研修とパートナーに求めた役割 ―人材育成を進める中で、どのような課題意識から「集合研修」や外部パートナーとの取り組みが必要だと感じられたのでしょうか? 当初は、民間企業などでも広く評価されているような質の良いeラーニング教材さえあれば、みんなしっかり勉強して、DXは進むだろうと安直に考えていました。しかし、人材育成の本質からすると、目的は、“学ぶこと”ではなく、“学んだ知識を活かしてアクションや実践を起こす”ことであり、その循環を学習者の中に起こすことこそが、人材育成の取組だと考えていて、やり方をずっと模索していました。 そこでeラーニングに併せて、学習参加者が集まれるような仕掛けとして、参加者全員が繋がれるオンラインコミュニティの運営であったり、実践的な経験を積むことができる集合型の研修を実施したかったのです。個人として身につけたDXスキルや知識を、どのようにして組織に広げて活用していくことができるか、波及・伝播させていくかに注目をして、「リーダー人材育成」として集合研修に取り組みました。 リーダーとしての心構えの習得をはじめ、リアルな場でのコミュニケーション術を会得する機会として、“人を活かす”プロであるパソナデジタルアカデミーにお願いできると考えました。 3. 引っ張る人だけがDXリーダーではなかった ―今回のDXリーダー育成は、どのような考え方からスタートし、研修を通じてどんなリーダーシップ像が見えてきたのでしょうか? もともと、DXという行政改革を牽引できる人材を育成するために、“何かを変える役割”を担う人材を育成したいという考えからスタートしました。 ただ、組織によって求めるリーダー像は異なり、横浜市の中でどんなリーダーシップがふさわしいのかは、最初から明確に決まっていたわけではありませんでした。研修を企画する段階から対話を重ねて仮説立て、実際に研修を進めていく中で、都度成果を見ながら柔軟に一つの形にしていった、という感覚です。 リーダーシップがある人=行動を起こしてグイグイいく人、だと思っていたのですが、私のイメージや感覚は大きく変わりました。必ずしも、ブルドーザー型のリーダーがいなくても、自然と“渦”のようなものが生まれ、新たなチャレンジは進む。これがチームで仕事を進める推進力となるということだとわかりました。 4. オンラインだけでは生まれなかった、想像を超えた価値とは ―今回、対面研修とeラーニングを組み合わせた研修を実施してみてどのような良さがあったと考えていますか? 集合型研修ではオンラインだけでは成し得ない、まったく違う価値を生み出せたと考えています。リーダーとしての心構えを体験を併せて学ぶことができたり、 リーダーとしてのコミュニケーション術を会得することができました。 Teamsで参加者同士がやり取りできるオンラインコミュニティを運用していますが、集合研修で学んだり、体験したアプローチがそのまま展開されはじめ、「これどうだった?」「あれ使ってみたよ」とわいわい話す中から、参加者同士で連携して課題解決の動きが生まれてきました。 事務局から何かを仕掛けたから生まれたということではなく、参加者がつながり、考え、行動することで新たなアクションに発展しました。 ずっとモヤモヤしていた“学んだ知識を、アクションや実践につなげる”という循環が、学びを目的に設計した研修の場で自然発生的に生まれたことが、本当に想定外でした。DXの人材育成に関しては「成功事例がない」、「正解が分からない」事業だと捉えていましたが、このように、やってみて気づくことや想定を超える価値を生み出せたと思っています。 5. 学びを実践した参加者によりコミュニティが活発に ―実際、参加者の反応はいかがでしたか? 本市の研修で多かった“静かに聞くだけ”の研修ではなく、「わいわいと話しまくってゴールを目指す」という空気感の研修を作ってみたかったんです。実際に研修を開催してみるとポジティブに受け止めてくれた方が多く、アンケートを見てみると、他の研修だと“特にありません”みたいな自由記載が多いのですが、この集合研修ではそれはほとんどなくて、熱意あふれる前向きなコメントが多かったのが衝撃でした。 研修の回を重ねるごとに雰囲気はどんどん良くなっていって、オンラインコミュニティでのやり取りにも変化が生まれてきました。“リーダー素養”の発揮や“心理的安全性のある関係を作る”ことは集合研修でも大事なポイントでしたが、それを実践してくれたんですよね。 この集合研修の参加者がコアメンバーになってTeamsで発信をしたり、誰かが発信したことに対してリアクションが活発になったり、言葉のかけ方も変わっていきました。そうすると、「発言したいけどできない」ような層のメンバーも声を上げやすくなったんです。 コミュニティの在り方やリーダーシップを集合研修でのワークショップで学び、それを体感した参加者は、自分の職場でも実践するようになっているようです。研修参加者の上司から私のところに、「研修に参加して職場での行動が変わった」「研修で学んだことを職場のメンバーにも説明してくれた」という声が届き始めています。こういった動きができるのは、まさに理想的なリーダーですよね。 ―参加者の反応として、印象的なものはありますか? 具体的な事例で言うと、「AIエージェントブーム」が挙げられます。参加者の一人がeラーニングの学習をきっかけに、実際に手を動かして一つのAIエージェントを作ってみた、というものから始まります。不完全なものだったけど、みんなに見せたところ、参加者がそれぞれが持ち得る知識や経験、触ってみての感想などを自然と持ち寄ります。いろいろな視点、いろいろな価値観が集結して一つのものを作り上げる、まさにイノベーションを生み出す空間でした。 このような動きは非常に発展性があり、誰かが呟いた悩みや困りごとはコミュニティ全体で考えることができる素地が出来上がりました。「これ聞いていいのかな」と思っていたことも気軽に投げられる。そういうコミュニティの中で、自然と周囲を“巻き込み”ながら解決に向けたアクションを進ることができる人材が育ってきました。それと同時に、”巻き込まれる”ことに躊躇しない人材にも育っていきました。対面研修を通して心理的安全性が高まってきたからこそ、何でも話すことができるコミュニティが出来上がったのだと思います。 6. 対面研修だからわかった、DXリーダーに本当に必要な力 ―研修を終えて、DXリーダーにとって特に重要だと感じた力や学びは何でしたか? リーダーシップを学ぶ機会は、実はあまり多くないと思います。これまで横浜市でも、リーダーシップ研修は管理職が受けるもの、という感覚があります。しかし今回の研修は、現場の第一線で活躍する職員をはじめ、現場の中で指揮を執るプレイングマネージャーも参加しています。その結果、指導・指揮するのではなく、「周りを巻き込む」形のリーダーシップを学んだというのは、これまでにあまりなかったアプローチだと思います。 正直に言うと、研修を始めた当初は「DXリーダーとは何か」「どんな役割を果たす人なのか」は、はっきり見えていませんでした。これまでの育成ではDXを進めるための「リテラシー教育」を中心に進めてきたからだと思います。全体の底上げが一定に進み、取組を牽引する人が機能できる状態をつくれてきたからこそ、DXリーダーという存在が本格的に必要になり、人材に求める役割を“イメージ”ではなく、具体的に考えているところです。 集合型の研修を終えてみて、「巻き込み力・巻き込まれ力」は非常に大事なキーワードだと感じています。引っ張るリーダーもいれば、支える・寄り添うリーダーもいる。そのどちらも必要です。そしてこの「巻き込み・巻き込まれ」は、eラーニングの教材だけでは得られないもので、集合型研修だからこそ学び取れたことだと考えます。 集合研修の中で実施した「AIワークショップ」では、生成AIを活用したアイデア拡張に加えて、「生成AI×仲間との対話」によるグループワークを行いました。他の研修でも、人との対話の中で判断・決定していくためのプレゼンスや伝え方の大切さを学びました。結局のところ、人をどう巻き込み、どう巻き込まれるかが重要なんです。 そして、このリーダーシップをコミュニティの中で行動として示すことで、他者に伝播していく。それを強く実感した研修でした。正直、この研修ではプラスなことしかない、得るものしかなかったです。 7. つながり続ける・広げることで、DXは前に進む ―今後、このコミュニティをどのように育てていきたいですか? […]